佐賀大学 大渡啓介様
理学と工学、2つの領域を融合させた学びが得られる佐賀大学理工学部。今回は、その中の機能物質化学科(大学院では工学系研究科循環物質化学専攻)、大渡研究室を訪問しました。分離工学という分野についての研究を進めている大渡教授は現在、産学・地域連携機構 知財戦略・技術移転部門長も併任。佐賀大学の産学連携についても伺いました。
「レアメタル」を取り出す。
私の研究室では、バイオマス廃棄物を有効活用しながら、鉱石中や都市鉱山(ゴミとして廃棄された家電製品などの山)に埋蔵されているレアメタルを選択的に取り出す、また有害物質を含む場合はそれを除去して廃棄しやすくするための回収材・分離材の研究を行っています。レアメタルとは、産業に欠かせない元素の総称で、日本国内だけでも31種47元素が存在しているもの。「レア」とは「珍しい」を意味しますが、化学の分野では「産業的にものすごく使える」とか、「ある地域にだけ存在する」という定義としても使われています。研究の手法としては、有機合成した物質から取り出したい元素を決め、「こういうものを作ったらどうだろうか」と予想しながら分子設計を行い、その設計図を元に様々な条件の下、金属が取り出せるかどうかを検討します。主なターゲットは、電池に使われるリチウムや、テレビの電極・透明電極に使われるインジウムなど。宝飾品や触媒として機能的にも優れている貴金属類をターゲットにしても良いのですが、ものによってはコストもかかるので、研究時にはそれも踏まえて検討しています。ちなみに私が研究している分離工学という分野には、化学工学的な手法をメインに、“動きながら分ける”ことを研究している川喜田研究室、分子をナノ化して触媒機能を上昇させ、物質を選択的にある形に制御して取り出す研究をしている森貞研究室があり、それぞれが違ったアプローチ法で物質の“取り出し”や“吸着”について研究しています。
即戦力を育む佐賀大学理工学部。
佐賀大学は平成9年に理工学部を設置し、「理学」と「工学」、2つの領域を行き来しながら学ぶ土壌を作りました。日本では大学受験を見据え、「もののメカニズムを知る」といった「理的」な部分を学ぶことにウエイトが置かれています。もちろんそれも大切なのですが、大学を卒業して社会に出た時に求められるのは、何ができるのかという「工的」な部分。当学部ではその2つの領域を捉えることで、社会に求められる学生を育てています。機能物質化学科でも、学生たちは有機合成から分子にさわる授業まで様々な分野について学び、鉱山会社や金属メーカーに即戦力として採用されています。
化学は、「逆転できる」学問。
化学は思い通りにならない学問です。学生たちからも「先生にこう言われたが、こういう結果しかでません」、という嘆きの声を聞くことがしばしばあります。しかし、誰も考えないことが事実で起こる点こそが、化学の面白いところ。誰もが逆転できる面白さ、とでも言うのでしょうか。その原因を追求することで新しい発見につながる可能性もあります。もちろん、繰り返し実験を行ってもひとつの結果にしかつならがなければそれは真実であって、それもまた何かの役に立つことがあるかもしれないのです。
学生の頃の夢は教師。
実は、高校時代に私が目指していたのは教師。化学は好きだったのですが、当時は教師になるためのひとつのツールという存在でした。しかし残念ながら受験に失敗。それで、工業化学科に入学したんです。さすがに最初は落ち込みましたが、先生に「ここでも教員になれるよ」という言葉をいただき、ならばしっかり化学に向き合ってみようと。そして今、教授として教壇に立っているのですから不思議なものです。大学時代は、ミカン搾汁残渣や古紙などのいわゆるバイオマス廃棄物を使って、金やレアメタルを回収する研究を行っている井上勝利先生のもとで学び、私も4年生の時にはキトサン(カニやエビの殻から取れる物質)を化学修飾して回収に使えないかという研究に取り組みました。その後修士課程で物質を作る分野にも関わり、現在に至っています。
産学連携を目指して。
現在私は教鞭をとる一方、大学の中で生まれた特許製のあるものを企業に技術移転するために、企業との仲介役を行う学内機関(TLO)で、産学・地域連携機構 知財戦略・技術移転部門長も併任しています。大学という場所は、これまで外部との連携に消極的だったところもあるのですが、今後は大学側の動きを活発化させ、産学地域連携にも力を入れていこうと。佐賀大学では近年、「地域貢献をする大学に」という舵取りを行いました。佐賀県内には化学系の会社が少ないため、直接的な貢献は難しいかもしれませんが、教育や研究を通してこの取り組みを進めていきたいと思っています。
趣味は魚釣りと料理。
魚釣りが好きです。今はなかなか時間が取れませんが、子供と一緒に唐津や呼子、伊万里に行きたいですね。料理も好きで、餃子を皮から作ったり、ホタルイカを買ってきて、醤油とみりんと酒で味付けして沖漬け風にしたり…。家に学生を招く際にふるまうこともあるのですが、なかなか好評です。ちなみにこうしたホームパーティは、学生たちとの交流が楽しみであるとともに、彼らが社会に出た時、組織の一員としてわきまえておくべきことを学ぶ場でもあります。私の研究室では、幹事を持ち回りにするのですが、経験を通して、段取りを組んだり、相手のことを思いながら行動することを学んでもらえればと。こうした経験は研究を進める上でも大いに役立つんですよ。
the lab next door
工学系研究科 先端融合工学専攻准教授
川喜田英孝
分離工学の中でも、扱うものを金属に限らず、「動かしながら取り出す」など、動きにバリエーションをつけながら物質を分離する研究を行っています。液体も分子も動いている状態ですので、思い描いたことを具現化できないことが多く、苦しむこともしばしば。そんな時、大学時代にサッカーばかりせず、もう少し勉強しておけば良かったと思います(笑)。 研究室では、ひとりひとり異なる学生の個性、「どうやりたいか」に耳を傾けながら学生と接しています。「自分で考えてみよう」と突き放すこともありますが、それは、敷かれたレールの上を進むような学生になって欲しくないという思いから。研究を通して学生を育て、育てながら研究する、こちらも「動かしながら」の作業なので大変です(笑)。