広島大学 准教授 日比野忠史様
子どもが遊べるような川を取り戻す
海や川の沿岸や干潟、河口域などを中心に、環境保全のための研究をしています。子どもが水辺に下りて遊べるような、きれいな川や海を取り戻したいのです。沿岸域はさまざまな自然・人為的要因が複雑に影響していますから、研究内容はたくさんあります。水や大気の流れ、水中の生物や含有物はもちろん、水底の泥や砂の状態も調査しますし、調査や分析を基に技術開発も。研究の成果はどんどん実用化しています。
現在取り組んでいる大きなテーマは、有機汚泥の浄化。広島湾やそこに流れ込む太田川の河口域、福山市の内港でも実施し、水質改善の大きな効果を上げています。見違えるほどきれいになりましたから福山市から表彰されましたし、平成30年度は文部科学大臣表彰「科学技術賞 開発部門」を受賞しました。
灰を使って水底のヘドロを浄化
川のヘドロが臭いと思ったことはないですか? 都市部の下水道は雨水と汚水が一緒に流れる「合流式」が多いのですが、豪雨などで下水道が増水すると未処理下水が放流されて、河川汚染の原因になっています。つまり川の汚れは分解されていない有機汚泥なんです。
これをきれいにするために、灰に注目しました。花咲じいさんという昔話がありますよね。枯れ木に灰をまいて花を咲かせる話です。昔から灰は、畑の土壌改良や肥料に使われているのです。灰にはミネラルが豊富に含まれていて、酸化した汚泥を中和させるとともに、微生物が有機物を分解するのを助けます。
現在、使っているのは、火力発電所で捨てられる石炭の灰ですが、竹害対策も兼ねて竹にも関心があります。石炭灰はシリカが多く、竹の灰にはカリウム、マグネシウムが豊富です。また木の灰にはカルシウムがたくさん含まれています。こういったさまざまな灰を、どのようにブレンドするかなども研究中です。
ヘドロで発電する燃料電池の実用化へ
微生物が有機物を分解するときに電子が出ます。その電子を集めれば発電ができますよね。言い換えると、電子を取り出せば分解が進むということ。発電を促して電子を放出させれば、ヘドロの浄化を進めることができます。それが、微生物燃料電池です。
一般的に燃料電池では、水素(H2)を燃料にしますが、微生物燃料電池の場合は、微生物が有機物を消化するときに出る水素イオン(H+)と電子(e–)が燃料になります。
とはいえヘドロから取れる電気はまだまだ少ないですから、発電量を増やすために、電位差を大きくする研究や、電極の工夫、エネルギー損失を減らす方法など、全て研究テーマとして取り組んでいます。いま、鉄(Fe)を使った電極を使っていますが、これは産業廃棄物となる鉄鋼スラグの再利用です。
幅広い知識が問題解決の糸口になる
私は防衛大学を卒業後、河川土木関連の技術系幹部として陸上自衛隊に務めましたが、退官して研究者の道に。中央大学や国交省の研究員としても働きました。その中で、気象学、地盤工学、河川工学など、ざまざまな研究に従事。おかげで広い知識と、領域にこだわらない柔軟性が身についたと思います。潮流と気象との関連を発表したのは私が最初だと思いますし、水質の決め手になるのが泥だというのも私の研究ですね。こうして異なる分野を横断するような研究をしています。
私が研究職に就いたのは31歳で、学位もなく遅いスタートでしたから、人と同じことをしていてはダメ。人が気にかけない組み合わせに目をつけて研究しました。そうすれば、その道では最先端ですから(笑)。実際1つの学問だけでは社会の問題解決はできません。私たちの研究も、物理を基本にしながらも、化学、生物、数学、英語などの知識が必要になっています。広く学ぶことはとても大切なことです。
世の中をハッピーにする研究がしたい
ビジネスとして成立する研究がしたいと思っています。つまり、世の中の人が使いたいと思うものをつくりたいんです。基礎研究はもちろん大切ですが、それを実用化する技術開発も進めていきたい。世の中をハッピーにしたいんです。
個人的に最終的な目標は、人に本来備わっている感性や優しい気持ちで暮らせるような環境整備や、子どもが健やかな感情を育めるような施設をつくりたいんです。現在の研究は、そのステップのひとつですね。
研究内容はこんな感じですけど、ゼミの様子は中下助教から聞いてください(笑)。
「本質を目指す情熱が魅力」(中下助教 談)
ゼミの研究は実用的な技術も多く、手ごたえがありとてもおもしろいです。そしてなにより日比野先生の生き方が魅力的。「高い目標を持ってあきらめずに向き合うこと」「本物に触れること」を通じて、ものの見方や考え方を鍛えられます。例えば、目標として国家公務員一種の受験が慣例になっていて、毎回、ほぼ全員が合格。お酒や食事も、よいものを味わうことを教わります。つまりおいしいものを食べさせてくれます(笑)。本物を知らなければ何もできない、語れないというのが日比野先生の考え方。熱くてチャレンジングなので、新しい研究もどんどん進んでいます。それだけに厳しいんですが、ゼミ生含め論文発表の実績が多く、評価も得られているため、学費免除の学生や研究員も多いんですよ。私もその一人です(笑)。ゼミの研究は実用的な技術も多く、手ごたえがありとてもおもしろいです。そしてなにより日比野先生の生き方が魅力的。「高い目標を持ってあきらめずに向き合うこと」「本物に触れること」を通じて、ものの見方や考え方を鍛えられます。例えば、目標として国家公務員一種の受験が慣例になっていて、毎回、ほぼ全員が合格。お酒や食事も、よいものを味わうことを教わります。つまりおいしいものを食べさせてくれます(笑)。本物を知らなければ何もできない、語れないというのが日比野先生の考え方。熱くてチャレンジングなので、新しい研究もどんどん進んでいます。それだけに厳しいんですが、ゼミ生含め論文発表の実績が多く、評価も得られているため、学費免除の学生や研究員も多いんですよ。私もその一人です(笑)。