京都大学 准教授 佐山 敬洋 様
京都大学大学院工学研究科を専攻し、博士号取得。2005年、京都大学防災研究所の助手に就任。2007年から2年間、オレゴン州立大学客員研究員を務めたのち、土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)主任研究員、政策研究大学院連携准教授を経て、2015年より京都大学防災研究所社会防災研究部門防災技術政策研究分野准教授。現在に至る。
先生が取り組まれている研究はどんな内容でしょうか?
専門分野の水文学は、水の循環を取り扱う学問です。オレゴン州で研究員を務めていた時も、山の中で水がどのように流れているかを研究しました。現在、研究を進めているのは2つあり、ひとつは日本の洪水予測です。中小河川など、情報が限られた地域で川の水の流れや水位を予測するシュミレーションモデルを作る研究を主体としています。従来は流域単位でモデル化していたのですが、ここ2年くらいは日本全国に広げようとしています。1キロのメッシュで解析していたのを、最新のコンピューターを導入したおかげで150mで解析できるようになりました。災害調査や現地を視察して、シュミレーションモデルと比較し、確認をしています。
もうひとつの研究はどんなことをされていますか?
もう一つは水循環と環境問題に関心があり、インドネシアのスマトラ島でここ5年くらい調査研究をしています。熱帯の森林地域は過去の水文データが限られるため、シュミレーションモデルをベースにしながら、ほんとうにそれが正しいのかを現地観測しながら確認したりしています。
インドネシアでは、ここ25年の間に土地の利用の仕方が変化してきています。森林がパーム椰子畑へと変わってきているのですが、気候変動の影響も加わり、将来、流域の環境がどのように変化していくのかを調べています。
森林が畑に変わることで水の浸透が小さくなりますが、では洪水が大きくなるかというとそう単純ではない。実は、大きな河川流域のスケールで考えると思っているほどは変わっていない可能性があります。森林伐採よりも気候変動の方が、影響が大きかったりもします。現地政府が泥田湿地を乾燥化させて農地として利用しようとしているのですが、泥炭湿地を乾燥化させると火災になりやすい。煙の被害も大きく、CO2排出の問題もあります。洪水が頻発する下流地域の住み方を現地の専門家と一緒に考えています。パーム椰子畑をつくっている上流地域の方も、森林に戻すのは難しいですが、これからどうしていくのかが課題ですね。年に3回はインドネシアに足を運び、研究を続けています。
弊社のワークステーションをどのように活用されていますか?
さきほどもお伝えしましたが、150mのメッシュで解析できるようになったのは、ワークステーションのおかげですね。性能の高いコンピューターを使って、ここ5年くらいの間に社会で活用してもらえる洪水予測システムの開発を目指したい。スーパーコンピューターも使用しているのですが、それと同時に研究室でワークステーションレベルのコンピューターを何台か設置し、計算する手軽さも重要です。
洪水予測は河川事務所単位でしていることが多いのですが、複雑なプログラムだと専門家しか動かせないことになってしまって、使える人が限られてしまいます。京都大学のスーパーコンピューターでしか使えないとなると支障が出てきてしまいます。ですので、ワークステーションレベルのものが必要となるのです。 納入してもらった大型のNASもとても役に立っています。データが大きくなってきていますので、NASでデータを保存して、学生たちもアクセスして計算しています。NASの性能が良くなってきているので、アクセスやリモートログインも早くなってきているので、手軽さも増しました。
データを保存するだけでなく、計算しながら利用できるのがとても大きいですね。学生とのデータの共有ができるので、一つのデータをみんなで計算できるのも大きなメリットですね。
これからの傾向は?
コンピューター技術が高くなることで、研究が社会に出ていきやすいようになっていますね。防災研究というのは、災害が突発的に起こって、常に新しい課題が突きつけられる。ダイナミックに動いていく研究分野と思います。昨年の台風19号の解析では、39時間先までの雨の予測情報を使い、河川の流量を予測しました。従来に比べて、より長時間の洪水予測情報を出していける可能性があると考えています。ただし、10時間先にはこうなりますと社会に情報を伝えると混乱を招くこともあります。ですので、洪水予測は社会的混乱を招かないために、社会学や心理学の先生たちとも一緒に総合的に研究を進めています。1つの分野を他分野からの意見を出し合って、研究ができるのが防災研究所の魅力ですね。 災害時にほんとうに人々が欲しているのは、氾濫の情報ですよね。実は、氾濫の予測は、今の日本にはないのです。川の堤防が決壊するとか、川の水位があふれるのはわかりますが、これらは氾濫の予測ではないのです。氾濫の予測は、ベースはできているのですが、全国の中小河川を対象としようとすると、川の詳細なデータが必要となり、モデルにそうした情報を入れていかなければならないのです。地域の多様性、川の特性などを現場で調査し、シュミレーションモデルに反映していかなければなりません。長いビジョンで研究する必要があります。