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広島大学  教授 山本 透 様

1987年徳島大学大学院工学研究科修士課程情報工学専攻修了、同年4月高松工業高等専門学校助手、翌年講師に。大阪大学助手、岡山県立大学助教授を経て、1999年広島大学助教授、2005年広島大学教授に。2018年広島大学コベルコ建機夢源力共創研究所所長。2019年広島大学デジタルものづくり教育研究センター データ駆動型スマートシステム部門部門長、さらには、次世代自動車技術共同研究講座(マツダ)、JSWメカトロニクス共同研究講座(日本製鋼所)などの共同研究講座教授を併任し、多数の企業と連携して研究を行っています。

先生の研究内容について教えてください。

工学部で「制御工学」の教育研究に携わっています。制御工学といっても、一般の方にはピンとこないかもしれないのですが、私たちは日常生活で日ごろから「制御」の恩恵を受けています。例えばエアコン。エアコンは暑い、寒いと感じたとき、リモコンで温度を設定すると室外機が駆動し、室内の温度は少しずつ設定した快適な温度に近づいていきます。これが「制御」です。また、自動車は、エンジン、ブレーキ、トランスミッションなどに様々な制御が搭載されています。制御アルゴリズム(制御方法)によって機器などの動きが決まります。私はこの制御アルゴリズムの研究をしています。

先生がこの研究に携わるきっかけになったのは?

大学時代にたまたま指導教授から与えられた課題が制御だったんです。それがキッカケで制御アルゴリズムの研究に興味を持ちました。教員になって制御アルゴリズムの理論的な研究に従事していた頃、他大学で1年間研究に専念させていただくチャンスがあったんです。そこで指導していただいていた教授から「理論的な研究はなかなか実際の現場では役に立たない。もう少し産業界をみてみたらどうか」という助言をいただき、それが私の研究スタイルを大きく変える転機になりました。役に立つ制御アルゴリズムの構築をモットーに研究を進めるようになってから32年がたちますが、そのときの教授のアドバイスに本当に感謝しています。

現在はたくさんの企業と連携されていますよね。

産学連携で成功するコツは、企業の方と、最終的なゴールを共有することだと思っています。そう思うようになったのには理由があって、私が産学連携で共同研究をスタートさせた頃、ある企業のプラントを制御する制御アルゴリズムを開発したんです。その制御アルゴリズムは論文にもなり、一見成功したかのようにみえたのですが、その制御アルゴリズムを実際に使う技術者の方になかなか理解してもらえなかったため、数年でそのプラントは撤去されてしまったんです。これでは本当に役に立つ研究とは言えないですよね。それ以来私のところでは、企業の方も必ず一緒に入ってもらって共同で研究を進めています。現在一緒にやっている企業はマツダ、コベルコ建機、前川製作所、日本製鋼所、サタケなどです。コベルコ建機は2018年に広島大学内に「コベルコ建機夢源力共創研究所」を開設され、これまで以上に高い次元での研究活動を進めることが可能になりました。

最近はどのような研究に取り組んでいるのですか?

ものづくり現場では,試行錯誤を繰り返しながら実際にモノを作る時代は終わりました。例えば自動車産業では、作ろうとしているモノに備える機能ごとにモデルを構築し、これらのモデルを繋ぎ、これに基づくシミュレーションを通して所望の機能が実現できているかどうかを検証した上で、実際にモノを作るということがされています。これによって大幅なコスト削減と開発時間の短縮が図られました。この開発方法を「モデルベース開発(MBD)」と言います。
一方で、様々な環境や条件をデータベースに入れてデータに基づいて制御を行う「データ駆動型制御」も最近取り組んでいる研究の一つです。この研究で一番重要なのは、データベースに入れる情報。容量やスピードの問題もあり、データを入れればいいというものではなく、本当に必要なデータなのか取捨選択していかなくてはいけません。
デジタルイノベーションをキーワードに新たな産学連携モデルの構築と産業人材の育成に取り組む教育研究拠点として、2019年に発足した広島大学の「デジタルものづくり教育研究センター」では、企業と共同で「モデルベース開発」と「データ駆動型制御」のインタープレイによるものづくりのための新しい開発プラットホームの構築について研究を行っています。

これまでに企業と共同で成功した事例はどのようなものですか。

例えば、オムロンの電子温度調節器に実装した制御アルゴリズムです。これは特許を取得して、今でも市販されています。最近ではサタケの精米プロセス。精米タンクの中の米が減っていくと、タンクから落ちる米の流量が圧力の関係で変化してきます。一定量ずつ流し続けるために、ゲートの開閉度を制御する必要がありますが、この制御にデータ駆動型制御を実装しました。こちらも特許出願しています。

現在手掛けている具体的な事例を教えてください。

車のブレーキやアクセルの踏み方はドライバーによって癖があり、また車の経年変化によっても動きが変わってきます。マツダとの共同研究では、環境条件や動作条件を変えたデータをデータベースに入れて、ドライバーの運転技量に関わらず、思ったとおりの運転ができるような制御アルゴリズムを開発しています。 コベルコ建機との共同開発では次世代に向けた油圧ショベルの開発を行っています。油圧ショベルを制御する技術に人という観点を取り込んで、疲労感や不快感のない掘削の仕方や乗り心地を追求。夏は暑く、冬は寒いといった劣悪な環境ではなく、快適なオフィスで遠隔操作ができる油圧ショベルの開発を目指しています。経験の浅い作業者や女性作業者、年配作業者でも適切な支援を自動的に行うことで、熟練者と同じぐらいの操作ができれば、現場で熟練者が足りないという課題の解決にも貢献できそうです。

将来的に新しい分野での制御も考えていらっしゃいますか?

現在、電機メーカー、建設機器メーカー、自動車メーカー、化学メーカーなど多彩な分野の企業と連携しています。その他にも、農業や教育、経済といった分野からも一緒に共同研究しませんかという話がきています。例えば農業だと、植物栽培に必要な光、温度、湿度、風などをコントロールすることで、栽培管理の効率化にも貢献できるのではと考えています。 私たちが開発した制御アルゴリズムが実システムに実装されたときは、本当に嬉しい。モノを動かせる醍醐味と達成感を学生と共に味わっています。これからも幅広い分野において制御による付加価値を創出していきたいと思っています。

 

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