岡山理科大学 教授 大橋 唯太 様
京都大学大学院で、2002年に理学博士号を取得。研究職を経て、2004年、岡山理科大学に気象学の専門家として着任する。現在は岡山理科大学生物地球学部に所属。研究分野は、局地気象学、都市気候学、生(せい)気象学、農業気象学など。
研究分野は、暮らしに関わる気象学ということですが。
気象学にもいろいろな分野がありますが、私の研究で共通しているのは、私たちが住んでいる地域や環境に気象や気候の変化がどのように影響するかを調べることです。手法 としては実際に野外で観測したり、ワークステーションを使ってシミュレーションから気象の影響をはじきだします。
今、先生が特に力を入れているテーマは何でしょうか?
生気象学というのは、人間も含めて動植物全てに対する気象や気候の影響を調べる、かなり幅広い学術分野ですが、その中でも特に熱中症やインフルエンザと気象の関係を調べています。事前の気象情報から熱中症やインフルエンザの今後のリスクが予測できれば、一般の人にも貴重な情報になります。一方、特殊な霧が発生して高速道路が通行止めになる地域があるのですが、霧の発生が事前に予測できたら濃霧による交通事故を防ぐことにも役立ちます。こうした「予測」をおこなううえでワークステーションを使った計算がとても活用できるのです。
具体的にはワークステーションをどのように活用するのですか?
特定の地域の大気状態を、ワークステーションによる数値シミュレーションから、過去の再現や予測をおこないます。ワークステーションが計算してくれるわけですが、研究者が何にターゲットを置いて、計算結果を活用していくか考えて、ハードとソフトを設定することがとても重要です。
気象学にワークステーションを導入するメリットは何でしょうか?
時間的な予測だけでなく空間的な予測もできることが強みです。一番面白いのは、中国山地がなかったらとか、もっと低かったらといった仮定や、海水温が今よりも2度高かったらといった仮定を数値モデルのなかで設定して、現実の観測ではできない気象状態の仮想実験ができることです。
また、天気予報で発表される気温や湿度、風速などの気象情報は、ある地点で観測したものですが、実際は標高など地形の影響で場所によって異なります。観測に頼るしかなかった時代は情報が限られていましたが、気象のシミュレーションは大気をブロック状に細かく分割して計算することができ、立体的な大気の情報をくまなく知ることができます。コンピューターの進歩が著しい現在、私の研究室では大気を一辺500mのブロックに分割して計算できるようになりました。観測はどうしても点情報になりがちですが、シミュレーションは面的、立体的、かつ連続的な情報が得られるのが最大のメリットですね。私の研究室でも、10年前には1か月かかっていた計算も今では数日で終わるようになりました。これだけ進歩した高性能のワークステーションを大学の研究室に導入できて、思う以上の成果が出せるのはありがたいです。
今後コンピューターをどのように活用していきたいですか?
担当の花田さんには、ノートパソコンの調子などが悪くなって見てもらったり、いつもとてもお世話になっています。ワークステーションは常時稼働しているのでどうしてもトラブルのリスクがあり、そのつど助けてもらっています。研究は研究者だけではできず、業者の方にも常に助けてもらいながら成り立つと思います。今後は、計算効率を上げる方法として、ワークステーションを複数台繋いで稼働させ、計算負荷を分散して計算効率を上げた並列計算も目指したいですね。気象学の分野は、これからも現地観測と数値シミュレーションの両輪で発展し続けると思います。コンピューターの世界も日進月歩なので、研究者どうしでも常に情報交換をおこないながら、どのように研究を向上させていくかを考えています。