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福岡歯科大学医口腔保健学講座口腔健康科学分野 埴岡 隆先生

Fukuoka Dental College

タバコの健康被害は吸う人だけじゃない!
煙による意外な影響とは!?

Hanioka Takashi

埴岡 隆 先生

福岡歯科大学口腔保健学講座口腔健康科学分野 教授

口の中だけでなく体全体に被害を及ぼすタバコ。その研究を進める埴岡先生の研究室を紹介

 タバコを吸うことで起こる健康被害。そして、タバコを吸う本人だけでなく、受動喫煙による周囲への影響。加えて喫煙者に対してどのような伝え方をすれば、納得して禁煙に取り組んでもらえるのかといった人の意識まで含めた研究を行う埴岡先生。
 私たちが生活する中でタバコが及ぼす影響、タバコを研究するに至った経緯など先生に話を伺いました。

―先生の研究内容について教えてください

 私は、タバコ対策と予防歯科公衆衛生を専門としています。
元々は「タバコは体に悪い」というところから研究をスタートして、「タバコはなぜ悪いのか?」や「喫煙者のタバコに対する考え方や意見とは何か?」などタバコにまつわることを多岐にわたり研究しています。

 タバコの研究を始めたきっかけは、当時メディカルエレクトロニクスという装置の開発が盛んに行われており、目には見えない体の変化を測定したことでした。測定したものが体にどういう変化をもたらしているのかを患者さんに数字で伝えていました。
 口の中というのは通常ピンク色をしていますが、実は全部血管で作られているので、あのような色をしています。
 血液は酸素を運ぶなどの機能がありますが、タバコを吸った場合、「血管にどのような変化が起きるのか」というような口の中の変化をメディカルエレクトロニクスの技術を用いて調べるところから始まりました。
 今はタバコを吸うと歯周病になるということが当たり前になってきていますが、20年程前までは、タバコと口の健康についての関係というのはほとんど解明されていませんでした。
 タバコは体全体に影響を及ぼしますが、口の中を見るだけでも体全体の健康状態が把握できるのです。

 厚生労働省研究班が疫学研究の成果を総合的にとりまとめた報告書では、子どもの周りで大人がタバコを吸っていたら、その子どもがむし歯になる確率が高まることが、ほぼ確実だとされています。
 その理由は、タバコの煙で歯が溶けるのではなく、タバコの煙でむし歯を作るバイ菌が元気になるからです。
 煙を吸ってしまう子どものほうが影響を受けやすく、タバコを吸う大人の方が影響は小さくなります。まだ小さい子どもは、たばこ以外の影響(生活習慣など蓄積されて現れるもの)が小さいため、煙の影響を受けやすいのです。

 タバコのニコチンというのは、色々な作用があり、菌にも影響します。
 タバコの煙は刺激が強いので、むし歯菌は自分を強くしようとして殻とその中に酸をいっぱい作って煙が来ないように自分を守ろうとします。
 するとむし歯菌が酸を多く作るだけでなく、殻のおかげで酸が拡散しにくくなり、歯がとけやすくなります。つまりむし歯となりやすくなるのです。

 また、成長促進により子どもの歯も早く生えてくるようですが、普通よりも早く生えてくる歯というのはその分弱い歯が出てきて、早く酸にさらされるのでむし歯になりやすいというわけです。
 このような研究を論文で発表しています。


 これからは電子タバコについて研究をしていこうと考えています。
 日本でよく言う電子タバコは正式には「加熱式タバコ」のことで、電気で葉を加熱するタイプになります。世界の加熱式タバコの利用者のうち、ごく最近まで、90%が日本人でした。
 タバコの葉を用いず、ニコチンの液体を含む電子タバコはアメリカやヨーロッパでしか販売されてなくて、日本で販売するのは制度上禁止されています。

 加熱式タバコの方が従来の紙タバコより体に良いと言う健康の専門家も一部いますが、タバコの中に含まれる有害物質が減っているだけの話であり、体に良いはずはありません。体への害が減っているかどうかを見極められるかという問題です。
 元々もの凄い害があるなら、たとえ、毒物が半分になっても害が発生する量は変わりません。

 今はWHOがタバコの箱に50%以上の面積まで警告の表示を推奨する各国向けのガイドラインを作っています。これは大部分の国では、画像による警告とともに採用し実施されていますが、日本ではまだ実施されていません。
 タバコの煙でどのような影響があるのかというのは、自動車運転免許の更新の講習で事故現場の写真を見る時のように、強めにきついことを言わないと理解されません。
そういった人の意識がどうなるかということも含めて研究を進めていて、歯科医院の患者さんに意識調査というものも行っています。

―研究室について教えてください

 現在は大学院生が1人います。
大学院が4年制のため、その間に研究を行ったり、実際に被験者となってもらうなど色々な経験をしてもらっています。

 例えば、口臭の研究では、大学院生と一緒に唾液のストレス因子の測定を行いました。
 口臭の主な原因というのは、口の中の細菌や歯周病です。
 口の中の唾液には色々な成分があり、歯周病など口の中の状態だけでなく体全体の状態も唾液に現れるので、ストレスマーカーという分析装置を使用して、生きている生態系の状態を、学生と一緒に研究を行いました。

 また、歯科医になるなら、昔は勉強だけでも問題ありませんでしたが、今は研究にも関わらないといけないため、歯学部生の頃からリサーチマインドを高める必要があります。
 そのため、私のところでは、ただ治療するだけでなく、将来、「歯科医療を良くするための研究」に従事する意識を持つために、歯学部を卒業する前の段階で、同意をもらって無理のない範囲で、被験者になって研究に協力をしてもらっています。

―研究を通じて学生に教えたいことは?

 患者さんの歯の治療や予防する技術に加えて、新しい予防法や治療法を世間に広める能力を身に着けて欲しいです。
 学生の頃は「卒業をして歯科医師になる!」ということが目の前の目標になります。勉強もしないといけないため、難しい問題ではありますが、今以上に発展させようと思うなら学生の頃から意識を持って行動するのが重要だと思います。

―福岡歯科大学の魅力は?

 福岡歯科大学の魅力の一つは学生と教員との距離が近いところです。
授業を行う教室と教員がいる研究室が同じ建物内にあり、学生との距離が近いため、移動中も一緒になりますし、学生が話している内容も自然と聞こえてきます。また、学生も普段から先生が近くにいるため、気兼ねなく会話をしています。
 物理的に近いと心理的な距離も近くなるので、教員と学生がお互いによく分かりやすいのがこの大学の魅力の一つです。
 また、福岡歯科大学では、口の健康から全身の健康を守る「口腔医学」を推進しています。タバコの研究でもありましたが、口の健康は、全身の健康とつながっています。実際の診療現場では、何らかの持病を抱えた患者さんが増えています。そういった患者さんに対応するためにも、全身の健康について知識を持っていることが求められています。その求められている医学的知識を学べることも福岡歯科大学の魅力の一つです。

―高校生へ伝えたいことは?

 好奇心を持って想像力を働かせて欲しいです。
 その中で、基礎的なことを身につけておくのが重要だと考えています。
 ただ好きなことに没頭するのではなく、足りない部分を補った上で、伸ばすところは伸ばしていくのが良いと思います。
 それを行き過ぎず、計画的にできるのが理想です。

研究室の先輩たちの主な進路先

歯科医師、大学病院、大学教員

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