福岡工業大学 工学部 電子情報工学科 松木裕二先生
Fukuoka Institute of Technology
人の生命・財産を工学の力で守りたい
Matsuki Yuji
松木 裕二 先生
福岡工業大学工学部電子情報工学科松木裕二教授。
オリジナルのドライビングシミュレータなどを用いて、社会システム工学・安全システムを学問分野とした自動車事故防止に関する研究。
「人」を主体に工学の面から事故を防止する研究がポイント。
自動車事故防止や津波被害の減災。「工学で人の命を守る」研究と学びたい学生へのチャンスに恵まれた研究室の魅力を紹介!
どうしても眠いとき、人は正常な判断力を失ってしまう。
自動車に乗る際に、運転手の日常の生活習慣体調から予め眠くなる時間が予想できたら?速度だけじゃなく車間距離や運転者の状態によって今の運転がどのくらい危険かが明確になったら?という視点で人に寄り添って、事故の防止につながる研究を行っている松木先生。
先生の研究に使われるドライビングシミュレータは、なんと学生を中心とした研究室オリジナル!
学びたい意欲のある学生を強く後押しする研究室について話を伺った。
—松木先生の研究内容について教えてください。
「人の生命・財産を工学の力で守る」ということが、私の研究の共通したテーマです。
取り組んでいるテーマは大きく分けて2つあります。
1つ目は自動車事故の防止、2つ目は津波の減災を目指した研究をしています。
事故防止や災害による被害軽減を目的とした研究を行うためには、ただ単純に「計測センサの精度を上げる」だけではなく、実際にそれを使う人間側の問題にも着目する必要があり、人の心理的・生理的なメカニズムも踏まえたうえでのモノづくりが必要になります。
そのため、私の研究分野は工学が中心ですが、人の心理的・生理的な分野にも跨っているのが特徴です。
例えば、車に安全運転支援装置を付けたとしても、実際に使用する人がそれを正しく使えるのかどうかということまで考えたシステムを作りたいですね。
最近では、特に自動運転技術が注目されていますが、自動運転装置が付いたときに人は何をするのか、どのような不測の事態が起きるのか?といった問題まで考えることが私の研究テーマだと思っています。
1つ目の「自動車事故の防止」では、主に「運転中の客観的な危険性評価」や「居眠り運転事故防止」に関する研究を行っています。
私たちは運転をするとき、速度計(スピードメーター)を安全の手掛かりの一つとして運転しています。
しかしながら、速度というのは、運転の危険性を評価する指標としては実はたった一つのパラメーターに過ぎません。
仮に速度が同じであっても、車間距離の大きさ、ドライバーが眠たいかどうか、雨が降っているかどうかによって、運転の危険性は全く違いますよね。
ある瞬間の運転状態が本当に安全なのか、どの程度の危険性があるのかということを、速度計の情報と過去の運転経験だけで評価することは、人間にとっては複雑すぎて困難なのです。
そこで私の研究室では、車の速度や車間距離といった車両の情報、道路環境の情報、運転者の状態を表す情報などを用いて、運転の危険性を総合的に評価する指標を作ろうとしています。
居眠り運転事故防止に関する研究は、世界中でおこなわれていますが、私の研究室でおこなっている研究の最大の特徴は、「眠くなる時間帯とその程度を予測する」ということです。
従来の居眠り運転事故防止の方法では、運転者が目を閉じて眠る寸前の状態を検出して、警告を与えていました。しかしながら、この方法で警告を与える段階では、運転者は既に正常な運転ができない状態になっており、手遅れかもしれないわけです。
そのため、もっと早い段階で、例えば、あと30分後に眠くなるかもしれないという予測ができるのが一番望ましいわけです。
そこで、この研究では、運転者の数日前からの睡眠リズムなどのライフログを活用して、運転開始時に眠くなりそうな時間帯を予測することを目指しています。
これが完成すれば、運転前にコーヒーを用意するなど、運転開始前の段階で対策ができるようになるかもしれませんね。
これらの研究ではドライビングシミュレータを用いて研究をおこなっていますが、このドライビングシミュレータのプログラムは研究室の学生が1から全部作っています。
学生の教育という観点でも非常にユニークなところで、全部自分で細かいところまでカスタマイズできるということもメリットの一つです。
2つ目の「津波の防災減災に関する研究」では、今すでに津波を観測するシステムはありますが、東日本大震災のような内陸まで津波が上がってくるような大規模なものの場合に、陸地を遡上する津波を観測する方法はありません。
防潮堤を超えて、内陸のどこまで浸水してきているのかという情報が得られれば、もっと多くの方が逃げられたのではないかと考えています。
東北の被災地に聞き取り調査をおこなったところ、「避難してください」という警告が鳴っていても津波の接近に気がつかない人も多くいたようです。
「みんなが逃げないから大丈夫」、「今まで何回も地震による津波警報があったけど大丈夫だったから今回も大丈夫」と危険を過小評価してしまう正常性バイアスと呼ばれる人間の心理が働いてしまったことも、犠牲者を増やした原因と言われています。
そこで、私の研究室では、自動車の研究を進めていたことから車を使って、その地域の津波による浸水範囲を可視化できないだろうかと考えました。
東日本大震災では、遡上する津波が駐車車両を押し流しました。
浸水した自動車は、通常時と異なる動き方をするため、その特有の動きをセンサで検出することで、その地点が浸水したことを判定することが可能になります。
この簡易なセンサと通信装置を多くの車が搭載すれば、その地域の浸水状況を可視化することができ、津波による被害軽減に役立つと考えています。
—研究室について教えてください。
私の研究室では、「答えがない研究テーマ」を卒業研究テーマとして設定するようにしています。
答えが最初から分かっているテーマでは面白くなく、研究とは呼べないと考えているからです。
「世界初」「すごく役立つ」といった価値を見出さないともったいないと思うからです。
卒業研究には、1年という長い期間を費やしますが、中にはうまくいかないこともあります。
最初はこうじゃないか?という仮説を立てますが、場合によってはその通りにいかないこともありますし、装置を作ろうと思ってもうまくいかないこともあります。
しかし、私はそれでも構わないと思っています。
社会に出ると結果が求められることが多く、失敗は許されないことが殆どですが、大学時代は失敗ができるチャンスでもあり、失敗をすることでしか得られない学びを体験する価値があると思います。
卒業研究、修士研究のテーマは、基本的に私がいくつかを提案し、その中から選んでもらいますが、やる気のある学生は自分自身でテーマを探し、設定することもできます。
このようなやる気のある学生は、卒業研究に必要な装置やプログラムなども自分で作成し、先輩や同級生も巻き込みながら研究を進めたりしていますね。
そのため、やる気のある学生にとっては、とことん研究に没頭できる研究室です。
—福岡工業大学の魅力は?
福岡工業大学は、学生数が5000人以下の中規模の私立大学ですが、その分、学生一人ひとりに手厚い教育や学習環境を提供できるのが魅力です。
海外研修プログラムも充実していますし、特に大学院では、学生と先生の数が同じくらいなのでマンツーマンのような指導ができるのが特徴です。
低学年のうちから「教授のこのテーマが面白そうだからやってみたい」と、能力のある学生が研究室に出入りするようになることもあります。
私に限らず他の先生方も非常にウェルカムな雰囲気で対応する点も福工大の魅力の一つだと思います。
実際に、いま私が受け持っている四年生の学生も、三年生の時から大学院に進学することを決めて、当時から研究室にて研究をはじめていました。
彼は既に二度、国際学会で研究発表をしています。
やる気次第では経済面や学習面でも、大学側と先生たちが連携してサポートしてくれる点が福岡工業大学の魅力ではないでしょうか。
—高校生へ伝えたいことは?
とにかく失敗してもいいので自分の興味があることにどんどんトライをしてもらいたいと思います。
福岡工業大学の場合には、先生との距離の近さをはじめ、環境面やサービス面でも様々なチャンスがありますし、国際学会に参加した学生のように、グローバルな場所で研究発表するチャンスもあります。
やる気のある学生さんは大歓迎です。
研究室の先輩たちの主な進路先
九電工、大分キャノン、ケイ・シー・シー、セントラルソフト、日本自動化開発
福岡工業大学工学部電子情報工学科松木研究室
〒811-0295 福岡県福岡市東区和白東3-30-1 A棟7F
http://www.fit.ac.jp/sp/site/susume/lab/lab02