福岡大学工学部電子情報工学科 大橋 正良先生
Fukuoka University
広い通信技術を駆使して私たちの暮らしを一変させる新しい技術開発
Ohashi Masayoshi
大橋 正良 先生
福岡大学工学部電子情報工学科教授。
ワイヤレスセンサネットワークを中心に技術発展を目指す大橋先生の研究室を紹介
民間企業出身というバックグラウンドを持つ大橋先生。30年以上の企業経験や豊富な知識を応用して、様々な通信技術開発に日々取り組む、チャレンジ意欲に溢れた先生の研究内容について話を伺いました。
―大橋先生の研究内容について教えてください。
僕はもともとKDDIで30年近く移動通信システムを中心とした研究と開発を行っていました。それで、6年ほど前に大学へ来て、今はワイヤレス技術を主軸にした各種の研究開発を行っています。
入社したときは国際通信を担うKDDということで、衛星通信、特に船舶や航空機を対象とした移動衛星通信の研究開発・実験に従事していました。その後「これからは携帯電話システムでしょう!」ということで、1990年代頃になると3Gと言われた移動通信システム、今で言うガラケーの研究と開発、そして標準化を進めていました。その後、国の研究開発プロジェクトに携わり、同じく今でいうところのIoT、M2M、センサネットワーク等を研究開発していました。
大学に移ってきて、昨今センサやロボット、AIなどが世間で話題になっていますが、話題を聞くだけではなく実際に繋ごう、動くものを作ろう、きちんと計ろうといったことをやっていきたいと思ったので、学生と一緒にその辺を研究しています。
先端の研究としては現在、新しい方式に基づくレーダの実現を狙っています。九州大学名誉教授の香田先生と共同で研究しています。レーダというのは、アンテナに電波を出して、物に当たったら返ってきて、跳ね返ってくる微小な信号を検知してどのくらい時間がかかったか、どれだけの周波数がずれたかを求めて、対象物がどこまでの距離にありどの程度の速度で動いているのかを見つけるものです。今僕たちがやろうとしているのは、新しい波形を用いて、時間遅延と周波数ずれを厳密に測定できるようにするものです。通常では大変な計算回数を要しますが、それを劇的に下げようというのが提案技術のねらいです。最終的には将来の自動運転などへの適用を目指したいと思っています。
―研究室について教えてください
僕の研究室では、学生がやりたいことをやらせています。例えば、ドローンで温度計測をやりたいという学生には、ドローンや赤外線センサを提供しました。学生は一生懸命ドローンにセンサを装着し、実際に飛ばして温度計測し、その結果をYouTubeにも載せたりしています。
クラウドを触ってみたいという学生には、AWSを研究室で契約してIDを与え、ストレージの利用やWebサイト構築をやらせています。センサを使いたいという学生がいれば、センサノードに使えるRaspberry Piという一種の超小型パソコンも一台3~4千円くらいで買えますから、実際に触れて「慣れろ」「自分で繋いでみろ」「センサ動作させてみろ」と学生にやらせています。企業に入ったとき、「実際に接続して動作させました」と言えるような経験をさせたいです。
2年前には、サーバやデータセンタ等で温度異常を効率的に感知できるような監視ロボットのプロトタイプをKDDI総合研究所と共同で開発しました。これは実際にルンバの上にIPカメラや赤外線アレイ温度センサを乗せて、ワイヤレスブリッジで無線LANを介してリモートのコントローラPCやクラウドに繋ぎ、対象エリアの温度や画像データを自動で収集しようとするものです。電源供給に関してもルンバは自身でバッテリを持ちドックで充電できますが、通信機器類はそれがないのでモバイルバッテリから給電するとともに、ドック帰還時にワイヤレス給電で充電するようにしました。ここに示すサンプルの動画では、あらかじめリモートPCで設定した経路に沿って動きつつ、所定の計測位置に到着すると赤外線アレイ温度センサから得た温度情報とカメラ画像をクラウドに送るとともに、温度異常が生じていないかをコントローラで判定します。デモでは、熱いペットボトルを置いたところ、コントローラで熱を検出して、それを受けて、クラウド経由で警告のメールが発出されるのを確認しました。
加えて固定環境での環境計測ということで、ルンバ上部の観測機器を実際に大学の情報基盤センターに設置させてもらい一定期間観測してみました。
―研究を通じて学生に教えたいことは?
講義や実験の場では、言われたことをこなせばよい、という一面があります。研究を通じては失敗してもいいから意識を持って「自分で何かやりたい」というものにチャレンジして欲しいです。僕の研究室では、学生がやりたいというなら、無線技術以外でも制限を設けてはいません。逆にユニークなものが出てくることもあると考えています。今はセンサデータを処理するフレームワークやAIのフレームワークなど各種の処理基盤がクラウド上をはじめとしていろいろと世の中にあるので、それらの解説の記事やブログなどを見てまず取り掛かってみたっていいと伝えています。
―福岡大学の魅力は?
福岡大学は非常に環境が良いです。私学でこういう大きいところに2万人以上の学生・教員がいて、それでいてワンキャンパスという環境はあまりないですね。それと、僕のこれまでのキャリアが民間の企業出身ということもありますが、図書館の存在はとてもありがたいです。なかなか民間では研究に必要な文献というのは手に入るまで時間がかかったりするのですが、福岡大学にいれば欲しい文献もすぐ手に入ります。今執務している建物も築50年だった旧館から昨年度新しく建て替えられたばかりですし、研究環境はもの凄く充実しています。そしてなにより学生が明るく、性格が良い子も多いのが魅力ですね。そこは僕も楽しく付き合いたいと思っています。
―高校生へ伝えたいことは?
よく「あなたは成績がこのくらいだからこっちきなさい」と言われるケースがありますが、自分が本当にやりたいことを諦めずに見つけてほしいです。僕は1年程前に出張の授業で、大濠高校の学生さん相手に「ICTってなんだろう?」というのをテーマに取り上げてみました。工学部と聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、ポケモンGOを例に挙げて「これは今のICTの最新技術が盛り込まれている!」という話をするとみんな興味を示してくれました。さらに2,3人はこの話を聞いて、「私は福大の電子情報工学科に行こうと思いました」と言ってくれたり、興味を持ってくれたりしました。「やりたい!」と思うことが一番良いと僕は思っています。「私の成績に合ってるから」という理由ではなく、「僕はこれをやりたいんだ!」というものを見つけて、そこを目指してほしいです。
研究室の先輩たちの主な進路先
SE、サービスエンジニア