北九州市立大学 文学部 濱野 健先生
The University of Kitakyushu
国際結婚の現状
国境を超えた家族の問題とは
Hamano Takeshi
濱野 健 先生
北九州市立大学 文学部 准教授
国際結婚における離婚問題。その研究を進める濱野先生の研究室を紹介
インターネットの普及により、国境を超えたコミュニケーションが多様化しました。
グローバル化が進むにつれ、国際結婚の割合も増加しています。
そうした中で問題になってくるのが、別居後の子育ての問題です。
離婚後子どもを連れ去ってしまう問題や子どもに会いたくても会えない状況の解決、別居家族における親子の望ましいあり方について、当事者に聞き取り調査を続ける濱野先生。国際結婚における文化と社会の関係についてお話を伺いました。
―先生の研究内容について教えてください
私の研究テーマは国際結婚です。
オーストラリアに留学していた際に、現地で会う日本人はみんな国際結婚している人ばかりでした。
しかも、ほとんどが女性で、現地の男性と結婚して永住者になっています。
そこで、「どうして女性たちばかりが国際結婚をして海外へ住むことになったのだろう」という疑問を持ったのが研究のきっかけです。
研究内容は、実際に国際結婚をされている方たちとお会いして、聞き取り調査を行います。
話を聞く中でよく耳にするのが、離婚の話や離婚後に別れた二人が子どもをどう育てていくかという話でした。
その当時、国際結婚がうまく行かなかった時に、子どもを自分の国に連れ帰ってしまうといった国際的な子どもの連れ去りが日本でも社会問題になっていました。
例えば、こうした離婚後も家族の関係性を残したいという人が増えてくる中で、1人1人の家族のメンバーが考えている思いをバックアップするために結ばれた国際条約が「ハーグ条約」です。
興味深いことに、国内の日本人同士の家庭でも、離婚後に同様の問題に直面している人たちが多いことがわかりました。
日本国内でも離婚した後に子どもと会えなかったり、会いたいけれどどうやって会いに行けば良いかわからないということが起きています。
そういう時に、誰かにサポートしてもらいたいと考える人たちから、「どうして国際結婚の場合はサポートしてくれる環境があるのに、国内の問題は具体的に動いてくれないのか」という訴えが出てくるようになりました。
日本人同士で結婚して、ずっと日本に住んでいたとしても価値観や家族の問題というものが、国境を超えたところからも影響を受けるようになりました。
その中で、国内の制度が「海外の事情」や「海外の社会の変化」とどうリンクして変化していくのか、といったことを私の研究では広く考えています。
―研究室について教えてください
私の研究室では、国際結婚の他に、観光や漫画といったことを専門にしている先生と共同研究を行っています。
その中で、私が専門にしている文化と社会の関係について基礎的な考え方を学ぶために、3年生では文献講読をします。
1週ごとに違うテーマを取り上げ、毎週全員がA4一枚に文献をまとめて書評を作り、持ち寄ってディスカッションを行います。
この場合、通常は週ごとに担当者を一人決めて行いますが、それを毎回全員で行うのが私のゼミの特徴です。
回数は一年で30回にも及ぶので、3年生の間に卒業論文に到達するボリュームのものを書き上げます。
その一年間のトレーニングを行うことで、50ページや100ページに及ぶ文献にでも注目すべきところを拾い上げてA4一枚にまとめる能力や、その要点を人にわかるように説明できる能力が身につきます。
基本的に仕事にはコミュニケーションが重要と言われますが、職場で記録に残しておくべき重要なものはすべて文章で回っていきます。
それが読めないといけないですし、書けなければ仕事ができません。
あるいは、自分が今の状況を改善したい、といったアイデアがあっても形にできなければ意味がありません。
私のゼミでは、学生にそうした能力が身につくようなサポートをし、2年間のゼミで生涯活かすことのできる能力を伝えていきたいと思っています。
―研究を通じて学生に教えたいことは?
すぐに役に立つ能力を大学に過度に期待しない方が良いかもしれません。
20代というのは始まりです。それから何十年も生きて行かなければいけません。
十年前までは当たり前だと思っていたものが、十年後には全く別のものに変わってしまう。
そんな社会の中で、これから何十年も生きていくために必要なものは、自分で考えて行動できる能力です。
その状況の中で何が起きているか、自分あるいは自分の周りの人が一番幸せに生きていくためにはどうしたら良いかということを一歩引いて考えられる能力が必要になります。
目の前で生じている事態に慌てふためかずに、あの人が言っているから、みんなが言っているから行動するのではなく、自分はどうしたいのか、それをするためには何が必要なのかということを冷静に考える。
大学を卒業して就職した後は予期せぬ出来事の連続です。結婚や離婚、新しい出会い、様々なトラブルに見舞われるかもしれません。
そういう時に立ち止まって考え、それから先の設計を組み立て直すことができる。そういった能力を身につける場所として大学を選んで欲しいです。
文系学問というのは薬で言えば「漢方薬」に近いもので、即効性はありません。即効性はないけれど、自分がピンチになった時や悩んでいる時にそこから回復する力として長期的な効力を発揮します。
大学卒業後すぐに役に立つだけではなく、その後の人生の転機にもそれぞれ効いてくるものなので、そういうものとして大学4年間を学んでもらいたいです。
―北九州市立大学の魅力は?
教員と学生の距離感が非常に近いところが北九州市立大学の魅力です。
大学の規模が小さいことで、教員と学生の関係性が密接です。
教員自身も学生の顔を覚えやすく、学生自身も私たちと日常的に出会って話をします。
授業以外でも様々な話をする機会が多いことは北九州市立大学の特色でもあります。
また、大学の雰囲気が比較的ゆっくりしているので、学生生活をのんびり過ごすことができることも魅力の一つです。
―高校生へ伝えたいことは?
それぞれの学部学科でどんなことが勉強できるかということは、所属する教員の研究内容も含めてよく調べておいた方が良いと思います。
その上でオープンキャンパスや説明会を利用した方が良いですね。
「親がすすめるから」「塾の先生がすすめるから」「進路指導の先生や担任がすすめるから」といって大学に来た学生は、「授業が面白くない」「自分が思っていたのと違った」と後になって感じることが多いようです。
なので、自分のやりたいことは何か?ということをしっかり調べて大学に来てもらいたいです。
もう1つは、学校以外の場所や機会に触れ、日常生活とは違う場所に身を置いてみる経験をしてほしいです。
例えば、高校生の時に読んでいた本や経験というのは底力として色々な授業で役に立ちます。
例えば、レポートを書くときやゼミの発表など、大学で学ぶことを底上げする時には、十代で読んだもの、考えたことに大きく左右されます。
授業でも学生のレポートを読んだ時に、どのような本を読んでいたかというのが、文章のスタイルや表現方法でわかります。
このように「学校」以外のところで豊かな経験をもつ学生は、それを糧にして最終的に独自のものを考える能力を高め、独創的な卒業論文を書いたり、就職活動でも魅力ある人材として評価されているように思います。
そのため、日頃見たり聞いたりしないものに触れてみたり、日頃出会わない人たちに会いに行ったり、自分自身の日常生活から少し外れた経験をしてきて欲しいです。
後になってからその経験は、大学で、そしてその先で必ず活きてくると思います。
研究室の先輩たちの主な進路先
民間企業、公務員、大学院進学