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京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系専攻 新福 洋子先生

Kyoto University

助産師ケア・妊産婦ケアにおける教育体制の構築

Shimpuku Yoko

新福 洋子 先生

京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系専攻 家族看護学講座 新福洋子准教授。
日本学術会議若手アカデミー副代表, Global Young Academy執行役員。
途上国における妊産婦死亡を減らすための助産師教育・妊産婦教育とその評価研究を行っている。

世界では毎日830人の妊産婦が亡くなっている。ITやアカデミーを駆使して、世界の助産を支える新福先生の研究室を紹介

タンザニアを中心に、助産師ケア・妊産婦ケアのアプリ開発やNPO活動としてタンザニアの子ども教育に携わっている新福先生。
日本学術会議若手アカデミー副代表、Global Young Academy執行委員という立場で若手研究者を支援し、国内問わず幅広い活動を行われている先生の研究について話を伺いました。

―新福先生の研究内容について教えてください。

私はアフリカのタンザニアという国を活動拠点にしています。
タンザニアで現地の助産師の教育を中心に、妊産婦とそのご家族の方に妊婦健診の指導も行っています。
途上国の問題として、妊産婦が病院に行っていない事もめずらしくなく、例え病院に行ったとしても途上国では診療やケアの質があまり良くないのが現状です。
ですので、病院の診療やケアの質を高めるように助産師の知識や技術を改善することによって、妊産婦がしっかり病院に行くだけでなく、病院に行った時に適切なケアを受けられるような環境づくりを目指しています。
まず診療やケアの質が上がらない原因に、医療人材の不足があります。助産師の数を増やすために助産師の社会的な認識を向上させる目的で、タンザニアに国で初の助産学修士課程を共同作成し、現在も教えています。修了生たちが大変な現状を社会的に発信し、保健省に掛け合って、状況を改善してくれることを願っています。

またこれはタンザニアに限った話ではないのですが、途上国の場合、助産師・看護師になっている人というのは学があり、収入も一般の人より多いという理由から、患者と助産師との間で上下関係が生まれやすいことがあります。
このような状況に加えて、深刻な人材不足と患者が多いことによる過重労働が重なり、助産師が患者に対して「強い口調でものを言う」ひどい時には「暴力を振るう」といった状況が生じやすく、こうした患者に対する態度により、患者は病院から離れていってしまいます。
こうした状況を目の当たりにした時、同じ医療者としてその個人を批判したくもなるのですが、よくよく調べて考えてみると、その背景には、植民地にされていたことから、「立場が上の人が下の人を従わせて良い」という考えが一度植え付けられてしまった歴史があったり、独立からまだ年数が短い場合に、その影響を否定することは難しいと思います。個人を批判するのではなく、社会やシステムを変えて行く必要があります。

タンザニアで出産後のお母さんにインタビュー調査をした時には「言いたいことを聞いてくれない」「陣痛があるのに呼んでも全く来てくれない」といったこともある為「家で産めば良かった」と言う人もいました。
しかし、出産時に病院にいないと何かトラブルが起きたときに対応が出来ません。
一番死亡率が高いのは産後出血で、特に出血の対応は一刻一秒を争います。
一時間でも遅れてしまえば出血多量で亡くなってしまうので、出血が起きたときには病院にいてほしいですし、出血が起きたときに早急に搬送してほしいという中で、対応が遅れてしまって亡くなるケースが圧倒的に多いのです。
そういったことを防ぐためには、産婦さんに病院へ足を運んでもらうことが重要ですが、来てもらうためには助産師たちが良いケアをしないと、次に来てくれません。
死亡率を下げるために病院に来て欲しいのに、ケアが悪いから来てくれない、来ないと緊急時に亡くなる、といった悪い循環が現状起きてしまっているところがあるので、まずは、助産師のケアの質を良くして、妊産婦さんに信じてもらう、病院に来てもらうという環境を目指しています。

タンザニアの助産師の行動が、日本人の目から見ると悪いように見えることもありますが、彼女たちも悪いことをしようと思って、助産師や看護師になっているというわけではありません。
たまたま先輩たちが「その様な対応をしてきたから」という理由で、それを真似して対応をしていることもあります。
しかし、情報社会になり外国も見える化されてきたことで、世界での標準的な助産ケアに自分たちも変えていきたいという気持ちになってくれている部分があり、改善していく取り組みが活きやすい時代になったのではないかと思います。

日本では、助産師になりたい学生に対して、助産学の教育を主に行っています。
大学で教えるだけではなく、実際に病院へ一緒に行って、学生が病院で赤ちゃんを取り上げる実習もしています。
学生は看護師や助産師の方と一緒にケアを行い、一緒に振り返ってそれを学びにしています。医療者には机上の理論だけではなく、実践で学ぶことが求められるため、求められる能力は幅広いものがあります。

その他には、日本学術会議の若手アカデミーの副代表をやらせていただいています。
研究は楽しい、でも若手研究者の中にも苦労している人たちは一杯います。
今後若手研究者たちが研究しやすいように、またその研究成果が世界をリードしていけるように、どのようによりよい環境を作っていくかということを話し合って活動をしています。
現在研究所や大学のポストに若手が踏み込みづらい状況があります。
なぜかというと、給料の他にも雇用の問題があるからです。
任期付きの雇用といって3年から5年間の雇用の任期があり、それを超える前か超えた際に、違うポストに昇進、もしくはどこか違うところに異動ということがあります。
家族を持ち始めてくるような20代、30代の時に不安定で、どこのポストが空くかもタイミングの問題なので、今の制度だと若手が非常に研究を継続しづらい状況です。
しかし、近年はテニュア制度といって契約期間中に成果を出すことが出来れば、ずっと契約できるような制度もでき、少しずつ仕組みも変わってきています。
本当は研究者になりたかったのに働いている先生を見て不安定なのは嫌だと思っている人たちが減って、私もやってみようと思えるように環境を整えていけたらなと思っています。

―研究を通じて学生に教えたいことは?

 世界には医療が行き届けば救える命がたくさんあるということを知ってもらいたいです。日本は健康や医療に関して世界トップレベルです。
世界一長寿の国ですし、妊産婦さんが出血時に医療が受けられなくて亡くなってしまうということはまずありません。
しかし、世界では妊娠・出産で驚くほど人が亡くなっています。
世界で毎日830人ほどが亡くなっていて、それはジャンボジェット機が2機毎日落ちているような状況と同等です。
本当にジャンボジェットが2機落ちていれば大事故ですので社会が動くはずなのに、それが全く起きていません。
毎日ジャンボジェット2機分に匹敵する数の妊婦が亡くなっているのに、それに対して問題意識を持つ人が少なすぎる現状や、そのことにメディアも大騒ぎしないというのは問題だと私は思います。
妊産婦死亡の90%以上が途上国で起こっていて、その中でも一番多いのがアフリカです。
日本でも出産時に合併症で亡くなる方がいらっしゃいますが、アフリカだと約200倍の割合でお母さんたちが亡くなっています。
その原因の多くは、医療が充実すれば亡くならずに済む出血で、他の国では亡くならない理由で亡くなるというのは、私は大きな問題だと思います。
問題に関わる方法はいろいろありますが、研究をおこなうのはその一つで、データを基に論理的で客観的な議論を行うことは重要であると思います。
一朝一夕にできることではなく大変な分野ではありますが、すごくやりがいがあるので、この分野に興味がある人達にはぜひ一緒に取り組んでほしいなと思います。
他国の人は大変だなとか他人事で済まさずに、世界の中でたまたま自分と違う環境にいる人たちに、自分たちができる何かをする、世界の問題は自分たちにも問題だという風に思ってくれると嬉しいです。

―京都大学の魅力は?

 学生が自分たちで考えて活動しやすい環境が整っているところが魅力です。
やる気がある子にはたくさんのチャンスが転がっているなと思います。
先生の言うことを待っているのではなく、自分がやりたいと思って責任をもって進めば助成金を出してくれる制度等がたくさんあります。
例えば、海外研究活動助成金や、「おもろチャレンジ」という主体的に海外で活動を目指す学生を支援する制度があります。
こういった制度を使えば学生の間に海外で何かを始めたり、他の制度なら日本国内でもやりたいことができるので、十分に活用してもらえればなと思います。

―高校生へ伝えたいことは?

 将来医療者になりたいと思うならば、高校生のうちにコミュニケーションスキルを身につける経験をしてほしいです。
大学で求められるスキルというのは、ただ学問を学ぶだけではなくなってきています。
例えば、医療者になろうという時には、どうしても人と関わる職業なので、「この発言は失礼だな」「こういう風に言ったら受け入れてもらえるな」など、拙くても相手への思いやりがあるかどうかが求められます。それには、人と直接関わって、相手の反応から学ぶことが大きいと思います。
しかし、今の時代はSNSやネットの普及により直接人と人とで関わる場が減ってきていると思います。
大学にただ進学するだけなら、良い成績を取ればそれ以上は求められません。
大学に進学した後は、学力だけでなく人間力を高めることも求められるということ知っておいてもらいたいです。
コミュニケーションスキルは勉強だけでは身につかないので、高校生のうちからクラブ活動やボランティア活動など、社会性を身につけるような活動をやっておくと大学に入ってからも適応できるかなと思います。

研究室の先輩たちの主な進路先

京都大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院、京都大学大学院医学研究科

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