九州大学大学院 工学研究院応用化学部門 岸村 顕広先生
Kyushu University
ナノテクノロジーを駆使した最新医療の発掘
Kishimura Akihiro
岸村 顕広 先生
九州大学大学院工学研究院応用化学部門 岸村顕広准教授。
Chemistry for Medicineをモットーに様々な開発を生み出す岸村先生の研究室を紹介
副作用を抑えて薬を効率良く患部へ送るドラッグデリバリーシステムやナノスケールの医療ロボットなど、ナノテクノロジーで今までになかった医療システムの実用化を目指す岸村先生。
柔軟な発想で医療の最先端技術を開発する先生の研究について話を伺いました。
―岸村先生の研究内容について教えてください。
応用化学を取り扱う分野になります。
私の専門はとくに高分子といわれるもので、プラスチックや繊維など、日常に溢れているものの仲間を取り扱っています。
日用品だけでなく、医薬品を包んでいるカプセルやフィルムなどのプラスチック素材も高分子になります。
もっと進んだところで言えば、ナノテクノロジーというのがここ二十年くらい流行っているのですが、そういうテクノロジーでナノサイズのプラスチックカプセルを作ると、今までになかったような医薬品が作れるようになります。
例えば、がん治療を例にあげると、抗がん剤には嘔吐や髪が抜けるといった副作用があります。
どうして副作用が起きてしまうのかというと、薬を使うことでがんになっている悪い細胞だけを死滅させることができればいいのですが、一緒に健康な細胞までも傷つけてしまうからです。
ピンポイントでがんの細胞だけを殺す薬というのはまだまだ開発が難しく、現在の抗がん剤治療では副作用が起こります。
ナノテクノロジーを駆使してなるべく副作用が起きないような薬を開発しているのが我々の行っている研究です。
新しいテクノロジーを上手く使ってカプセルやフィルムを作ることで、「今まで使いにくかった薬が使いやすくなる」、「副作用が強すぎて使えなかった薬が使えるようになる」、「今まで一緒に使えなかった薬が同時に使えるようになる」など、これまでになかった薬物治療などができるようになるだけでなく、他の治療法とも組み合わせやすくなります。
このように分子の目線で材料を作り、生命現象をコントロールするように使えると、早く病気を治すことが出来たり、人を元気にしたり、様々なことができる可能性があるのです。
その時に様々なアプローチがあります。
例えば、薬を飲んだ時に、体に吸収され胃とは違うところに吸収されますが、そのあとどこに行くでしょうか。
血管や血液に運ばれ、血液に運ばれることによって全身に行き渡ります。
そうすると、確かにいろいろなところに効きますが、逆に言うと、全身がダメージを受ける可能性があります。
そのため、特定の治したいところだけに薬が入るような仕組みができると一番良いというわけです。
先程のがん治療の例で言えば、薬のカプセルが、がんのところに集まって、周りの正常な部分にはダメージを与えないようにコントロールするアプローチがあります。
また別のアプローチとして、薬が吸収されるまでの過程をうまくコントロールして、効率よく薬を届けられるようにする方法があります。
人間の体の中には身を護るバリアー機能が備わっていますが、大きな課題として、このバリアーを通るように薬を投与しない限り、うまく吸収されないのです。
例えば、薬がどうやって投与されるかと考えるとわかりやすいですが、薬を腕や足などに塗ったりしますが、通常は皮膚が守っていますよね。
そのため、簡単には入ることが出来ず、実際に吸収されるものは限られます。
他の部分でも同じで、口、胃、腸からでも、食べたり飲んだりして薬を吸収することができます。
その結果、身体の中側の表面に接触することで栄養素を吸収できますが、このとき、何でも吸収出来てしまうようだと危険です。病原体などが簡単に侵入できるようでは、ダメージばかり負ってしまいますよね。
そうならないように、僕らの体は必要なものだけ吸収する仕組みになっています。
そういう仕組みがしっかりしているからこそ、普通に生きていられますが、逆にそれを上手く乗り越えないと入れたいものは入れられません。
体から見ると異物でしかない薬を入れるには、「栄養分」だと見せかけるとか、「生体から気づかれないような小さい粒子」にするとか、「生体が気にも留めず、害もないもので固める」などの方法があります。
私の研究では、そういった特殊なコーティングをして、バリアーをスルーして胃や腸などに吸収されやすくするような技術を研究しています。
医薬品だけでなく他のことにも使える基礎的な技術も研究しておりますが、それを上手く応用することで、治りにくい病気、届きにくい薬をうまく克服しようと日々取り組んでいます。
―研究室について教えてください
アジアからの留学生が多い、グローバルな研究室ですが、研究室の雰囲気は良いですよ。
研究室は全体で30人以上いますが、そのうち留学生が10人ほどで、アジアが多いです。
過去にいた留学生も合わせると、中国、台湾、インドネシア、韓国、ベトナム、ネパール、タイ、インド、バングラデシュ、イランなど様々な国から来ており、出身研究分野も化学に限らず異なる場合も多く、それぞれモチベーションが違います。
例えば、インドネシアの学生を例に挙げると、インドネシアには特有の病気や感染症があります。この学生は薬学系出身ということもあり、将来的にそういった病気などの「治療に役立つ勉強をしたい」という志を持って留学に来ています。
我々の研究室が直接病気の治療そのものを行っているわけではないのですが、それにつながる最先端のテクノロジーを身につけ、より新しい研究をしたいということです。
―研究を通じて学生に教えたいことは?
自分の中で合理的にものを考え、判断を下すスキルを蓄えていってほしいです。
研究室に所属するということは、一般企業で例えるなら「社長」と同じ立場である「教授」と直接会話ができる環境で仕事ができるということです。
それはつまり、それだけ責任をもった仕事を与えられているということで、そういった社会スキルを学べる場だとおもって勉強してほしいですね。
また、思考力・問題解決力が身につけられれば、どこにいっても仕事ができるグローバルな人材になれるということは知っておいてほしいです。
就職先を見つけるためだけに研究室に所属するのではなく、主体性を持って取り組むことで、結果的に企業が欲しがる人材としての能力が培われます。
もうひとつは、研究を通じてぜひ「オリジナル」なことを見つけてほしいですね。
世界でまだ誰もやっていないことを自由にできるのが大学の研究室の良さなので。
本に書いてあることをそのままなぞり、用意された通りの結果が出てうれしい、という次元からはさっさと卒業して、その先の「レシピを自分で作る」ということにチャレンジしてほしいです。
―九州大学の魅力は?
「利便性の高さ」と「アジア地域からの留学生の多さ」です。
福岡という、非常にコンパクトな街の中にある大学なので、非常に生活がしやすいですね。新幹線の駅や国際線も使える空港にアクセスが良いのは売りでしょう。生活コストが抑えやすいのに、質も高い、というところも強調できると思います。
また、最近ではアジアからの留学生が特に増えており、グローバルな環境になってきていてます。特に私の関係する学科では、国際コースも充実してきています。地理的に、留学生が帰省するときも近くて便利ですし、逆に日本人学生がアジアへ旅行に行くときにも便利ですね。その点をいかして、国籍の異なる学生間でどんどん交流して、先につながる国際性の高い研究に発展させられると良いですね。これからますます面白いことが起こると思います。
―高校生へ伝えたいことは?
本気で取り組める「何か」を探して、好きなことを勉強できるような人に育って欲しいです。
最近の学生の就職活動を見ていると、「なるべく楽して稼げるような仕事」を基準に進路を選んでいる傾向にあるような気がします。
大学にも、「有名な企業に就職すること」をゴールにして、学習計画を立てる子がいますが、そうではなくて、自分が心から楽しめるような「何か」を見つけて、それを大学で学ぶ。
そのほうが将来につながる力を、大学で身につけられると思います。そして自分の発想で自分から動ける人材になってほしいです。
基本的に「仕事」は大変なものです。それならば、本気で取り組める「何か」を高校生までの間にじっくり探して、それを大学で勉強するのが良いと思います。
研究室の先輩たちの主な進路先
旭化成、シスメックス、三菱ケミカル、東ソー、花王、中外製薬、久光製薬など
九州大学大学院 工学研究院応用化学部門 機能組織化学講座 片山研究室